作品No.075D
みなまた日記 -甦える魂を訪ねて
1時間40分/2004
土本典昭監督が再発見する「風化に抗して動く“みなまたのスピリット(魂)”」。水俣の海、魚、人々の祈りに耳を澄まし、自らの心象を映像でつづったパーソナル・ドキュメンタリー。
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内容紹介
甦える魂を訪ねて
1995年前後に撮ったビデオが、2004年に完成した理由を土本は「10年前の撮影当時、まだ告発運動者の意識が強かった私には“運動の再生”こそ想ったにせよ“祈り”はピンとこなかった」という。「1990年代、私は“水俣病、いまだ終わらず”という荷の重たい課題をどうしたらよいかに悩んでいた」。撮影の「数年後、改めて仮編集のままのビデオを見た。再発見があった。風化に抗して動く“みなまたのスピリット(魂)”が沈着していた」。土本がまず再発見したのは「“墓場”(埋立地)を『水俣病を記憶する場』(聖地)に作りかえていった」患者自らの働きかけだった。
1994年11月、埋立地で第一回「火のまつり」が催された。巫女姿の杉本栄子が魚の気持ちになって語った後、川本輝夫や緒方正人ら患者たちによって火が灯される。この埋立地の底に、ドラム缶に詰められ埋められた魚へ報いる火だ。また埋立て前の水銀排水路・百間港を忘れないようにと、川本が同地に無断で卒塔婆をたて、お地蔵様を建立した。
佐々木清登・患者連合会長の家で、亡くなった父親につきっきりで看病した時の話を聞く。彼は水俣市民への講演で、患者と市民の間の壁をなくそうと「市民も加害者でなく、被害者ではないか」と説く。
翌1995年正月には女島のえびす祭りへ招かれた。「本願の会」では埋立地に石仏をおく提案がなされた。30年ぶりに帰郷した遺族が、梅戸の岩場に貝の甦りを見る。「かつて人間を懲らしめた自然は今、人間を許している」とこの人はいう。5月の水俣病犠牲者慰霊式では、多くの犠牲者家族が欠席したが、高校生代表が水俣病を学んで語り継ぐ使命を説いて希望をもたらす。 夏には喜納昌吉&チャンプルーズが埋立地でコンサートを開いた。緒方がこのコンサートの意義は「沖縄、広島、長崎の線上にある水俣の埋立地が、奪われた沢山の命を忘れないための地となることを願う」ことだと述べた。数年後、埋立地に石仏が並んだ。この1年は、土本にとって水俣の甦りを訪ねる旅でもあったのだ。
石牟礼道子は、この映画で胎児性患者の「両の掌の著しい変形」を見て「床にはりついたままの掌は、大地の永い永い変遷、そこに蓄積された闇と光とを測っているかにみえる」と感想に書いた。ここには掌たちが語るのを聞く石牟礼の耳があり、掌たちを見る土本の眸がある。その土本の眸について「映像作家の眸は真実を超えて、21世紀への踏み出しは、より深い哲学なしには手がかりがないことを教えてくれる」と石牟礼は結ぶ。土本が再編集過程から再発見したのは、そこに宿った「より深い哲学」と「光」でもあったろう。
(『土本典昭フィルモグラフィ2004』より)
商品情報
■IF<INDEPENDENT FILMS>DVDシリーズ2 公害の原点・水俣から学ぶ Vol.16